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AeroPacer のバイクパートのタイムはどこまで正確か:実走パワーファイル 64 本をリプレイして検証

2026-09-01・2026-10-21 更新・羅譽寅(Lo U Ian)

AeroPacer の完走タイムは物理モデルで計算しています。過去の記録を統計式に当てはめているわけではありません。利点は、まったく新しいコースでも初日から計算できること。欠点は、本当に正確だと私が証明しなければならないことです。

どう検証したか

方法は「リプレイ」と呼んでいるもので、考え方は単純です。選手がレース当日に実際に出したパワーの記録を区間ごとにエンジンに入力し、カーブでの減速も加えます。気象観測所のデータがあるレースでは、当日の 1 時間ごとの風向・風速も入れます(64 本中 37 本。残りの 27 本は十分近くに気象観測所がなかったため、無風として計算)。そのうえで「この走りなら何分かかるはずか」をエンジンに計算させ、最後にサイコンが記録した実際の移動時間と答え合わせをします。

まず、これが何を確かめているのかをはっきりさせておきます。エンジンが受け取るのは、選手が当日「実際に」出したパワーです。つまり検証しているのは、何ワット出したかがわかっているときに、バイクパートのタイムを正しく計算できるかどうかです。レース前にプランを立てる段階では、パワーは目標値、天気は予報です。当日目標どおりに走れるか、予報が当たるかによって、さらに誤差が加わります。その部分の検証は、レース後にアップロードされたファイルが十分にたまってから行い、あらためて公開します。

ここでいちばん重要なのが CdA(空気抵抗面積。空気を押しのけるのがどれだけ大変かを表す値)の扱いです。あるレースのファイルから CdA を逆算し、その CdA で同じレースを予測したら、答えを見ながら解くのと同じです。そこで各レースに使う CdA は、必ずその選手の「ほかのレース」から求めた値とし、新しいレースほど重みを大きくして中央値を取ります。そのレース自体のデータは一切使いません。

サンプル

  • 9 人(私自身を含む)で、全員が同じコーチングチームの選手です。期間は 2019 年から 2026 年、ファイルは計 75 本。
  • 体重はすべて実測値を使い、車種も分けて扱っています(トライアスロン/TT バイクとロードバイクで、それぞれ別に CdA の基準値を作成)。
  • 問題が明らかなファイルは先に除外しました。パワーなしが 2 本、気圧計の故障が 4 本、重複アップロードが 1 本、トンネル区間で GPS が乱れたものが 3 本、180 km のコースで 73 km 地点で記録が止まったものが 1 本。これらのファイルから求めた CdA は基準値の算出には使い、完走タイムだけを統計から外しています。

これで評価できるのは 64 本で、15 の国と地域にまたがります。内訳はレース 61 本と、レースに近い距離のトレーニング走行 3 回(93、122、132 km)です。さらに、誤差が上下 7% を超えた 3 本を外しました。2025 年上海崇明 70.3 の +8.7%、2025 年 70.3 世界選手権(Marbella)の +7.4%、2023 年 Port Macquarie の −8.0% です。はっきりさせておくと、この 3 本は「結果を見てから」外したもので、データ品質を理由に除外した上の 11 本とは性質が違います。以下の結果は両方を載せています:64 本すべてと、この 3 本を除いた 61 本です。サイトのほかの場所で引用しているのは、1 本も除外していない 64 本のほうです。

結果

先に「中央値」を説明しておきます。すべての誤差を小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る値が中央値です。平均値と違って、少数の極端な結果に引っぱられにくいのが特長です。

指標 64 本すべて 特例 3 本を除外(61 本)
誤差の大きさの中央値(符号を無視) 2.1% 1.9%
誤差が上下 5% 以内の割合 86% 90%
誤差が上下 3% 以内の割合 67% 70%
最大の誤差 8.7% 6.8%
70.3(113 km)だけの中央値(トレーニング走行 3 回を含む) 1.8% 1.5%
フルディスタンス(226 km)だけの中央値 2.6% 2.3%
符号を含めた中央値 +0.3% +0.3%

サイトで引用しているのは左の列です。中央値 2.1%、86% が上下 5% 以内で、1 本も除外していません。時間にすると、フルディスタンスでおよそ 8 分の差です。

最後の行の +0.3% はゼロに近い値ですが、エンジンが「全体として控えめ」という意味ではありません。分けて見ると、平坦なコース(1 km あたりの獲得標高が 3 m 未満、18 本)では平均 2.2% 遅めに出ていて、18 本中 15 本が遅めでした。起伏の多いコースではむしろわずかに速めに出て、両者がちょうど打ち消し合っています。平坦なコースで遅めに出る理由のひとつとして考えられるのは、レース中は前後に人がいて空気抵抗が単独走より少し小さくなるのに、エンジンがそれを計算に入れていないことです。

表引きの CdA だとどれだけずれるか

同じリプレイで CdA を表引きの値(トライアスロンバイクの一般的な値を体重に合わせて換算)に替えると、64 本の誤差の中央値は 2.6% になり、上下 5% 以内は 81% に下がり、最も大きくずれた 1 本は 11.2% でした。差はそれほど大きくありません。多くの人の CdA はもともと一般的な値から遠くないからです。ただ、CdA が特に良い人や悪い人では、表引きの値は最初から最後までずれ続けます。自分のファイルから逆算する理由はここにあります。

誤差の分布

-82-72-61-51-46-37-29-17+08+16+27+33+4+52+6+7誤差 %(正=予測が実際より遅い、負=予測が実際より速い)・青色の帯=±5%
61 本の誤差の分布です。各棒は、誤差がその 1% 幅に入ったレースの本数を表します。上下 3% 以内が 70%、上下 5% 以内が 90%。プラスの値は、エンジンの予測タイムが実際より少し遅かったことを意味します。

予測と実際の差

2:002:003:003:004:004:005:005:006:006:007:007:00横軸=実際のバイクパート時間、縦軸=エンジンの予測(h:mm)・青点 226、黄点 113・青色の帯=±5%
点 1 つが 1 レースです。横軸が実際のバイクパートのタイム、縦軸がエンジンの予測。点が対角線に近いほど正確で、青色の帯は上下 5% の範囲です。フルディスタンスの点は 70.3 より少し広く散らばっています(中央値 2.3% 対 1.5%)。距離が長いほど、誤差が積み重なるということです。

誤差はどこから来るのか

  1. 体重。 面白いことに、「だいたいの体重」を使ったほうが中央値は良く見えます。体重が間違っていると CdA の推定値が逆方向にずれ、誤差をちょうど打ち消してしまうからです。実測の体重に切り替えて初めて、機材や年代の食い違いが表に出てきます。ダッシュボードで実際の体重を入力してもらうのはこのためです。
  2. 機材の変更。 ある選手の推定 CdA は、2022 年が 0.22〜0.23、2026 年には最低 0.175 まで下がっています。ただし一直線に下がったわけではなく、2024 年の 1 年だけでも 0.194 から 0.237 まで振れています。これだけ動く対象に、全履歴の中央値は追いつけません。「ほかのレースから CdA を推定する」以上、避けられない代償です。
  3. 気象観測所が遠い。 Port Macquarie の近くには気象観測所がなく、当日は強風でした。その結果、同じレースに出た 2 人の誤差は、一方が −8.0%(上で除外した 1 本)、もう一方が −4.1% になりました。
  4. 平坦な長距離コースでは、気圧計が獲得標高を水増しする。 これはエンジンではなくコースデータ側の問題です。コースライブラリでは公式ルートを基準にし、複数のソースと照合して対処しています。

検証に使ったレース

下の表は特例 3 本を除いた 61 本で、「レース × 年」の 46 通りの組み合わせから成ります(特例 3 本の数値は上に載せています)。同じレースにファイルが複数あるのは、別々の選手のものです。誤差は各ファイルの予測値を実際の値と比べたものです(プラスは予測のほうが遅いことを意味します)。3 本の「トレーニング走行」はレースに近い距離のトレーニングで(93、122、132 km。表には平均を記載)、2026 年のサンプル数を補うために加えました。

年 レース バイクパート ファイル 各ファイルの誤差
2026 鉄立方・広徳 113 113・88 km 1 +3.3%
2026 トレーニング走行(正式なレースではない) 116 km 3 -1.5% -0.3% +1.3%
2026 IRONMAN Vietnam・ダナン 226・180 km 1 +3.6%
2026 IRONMAN Taiwan・澎湖 226・178 km 1 +3.1%
2026 IRONMAN Hamburg 226・177 km 2 -1.4% +3.9%
2026 IRONMAN 70.3 上海崇明 113・90 km 3 +0.4% +3.5% +4.5%
2026 IRONMAN 70.3 大理 113・90 km 1 +4.2%
2026 Challenge Taiwan 226 226・180 km 1 +6.3%
2025 鉄立方・広徳 113 113・89 km 1 -0.3%
2025 台東之美 113 113・89 km 1 +3.6%
2025 IRONMAN 世界選手権・Nice 226・178 km 1 -0.6%
2025 IRONMAN 世界選手権・Kona 226・181 km 1 +2.8%
2025 IRONMAN Taiwan・澎湖 226・184 km 1 +2.6%
2025 IRONMAN Malaysia・Langkawi 226・179 km 1 -1.1%
2025 IRONMAN Gurye 226・176 km 3 -2.0% +0.3% +1.1%
2025 IRONMAN Frankfurt 226・175 km 2 +1.0% +1.4%
2025 IRONMAN California・Sacramento 226・180 km 1 +1.2%
2025 IRONMAN 70.3 墾丁 113・90 km 1 -0.7%
2025 IRONMAN 70.3 上海崇明 113・90 km 4 +0.9% +1.1% +2.6% +2.7%
2025 IRONMAN 70.3 Puerto Princesa 113・90 km 2 -1.3% -0.6%
2024 鉄立方・広徳 113 113・89 km 1 -2.9%
2024 IRONMAN 世界選手権・Kona 226・180 km 1 +0.3%
2024 IRONMAN Texas 226・178 km 1 +4.5%
2024 IRONMAN Cairns 226・179 km 1 -1.9%
2024 IRONMAN 70.3 世界選手権・Taupō 113・90 km 2 -2.7% -1.4%
2024 IRONMAN 70.3 墾丁 113・90 km 1 -6.7%
2024 IRONMAN 70.3 Subic Bay 113・91 km 1 +2.3%
2024 IRONMAN 70.3 Desaru Coast 113・89 km 1 -2.8%
2024 IRONMAN 70.3 Bangsaen 113・90 km 1 +2.3%
2024 IRONMAN 70.3 Bahrain 113・90 km 2 +0.2% +1.5%
2024 Challenge 厦門 113 113・89 km 1 +3.3%
2024 Challenge Taiwan 226 226・179 km 1 +0.2%
2024 Challenge Roth 226・178 km 1 +1.9%
2023 鉄立方・広徳 113 113・86 km 2 -6.8% -0.3%
2023 普悠瑪トライアスロン 226 226・178 km 1 -5.1%
2023 IRONMAN France・Nice 226・179 km 1 -5.6%
2023 IRONMAN Austria・Klagenfurt 226・179 km 1 -3.2%
2023 IRONMAN Australia・Port Macquarie 226・180 km 1 -4.1%
2023 IRONMAN 70.3 墾丁 113・90 km 1 -1.8%
2023 IRONMAN 70.3 Puerto Princesa 113・90 km 1 -0.6%
2022 IRONMAN Taiwan・澎湖 226・179 km 1 -2.7%
2022 IRONMAN 70.3 台東 113・88 km 1 -2.2%
2019 IRONMAN 世界選手権・Kona 226・180 km 1 +6.5%
2019 IRONMAN 70.3 西安 113・90 km 1 -0.3%
2019 IRONMAN 70.3 柳州 113・90 km 1 -0.9%
2019 IRONMAN 70.3 厦門 113・90 km 1 +0.8%

これが意味すること

一般の選手にとって、この数字の意味はこうです。レース当日に本当にプランどおりのパワーで走れたなら、バイクパートのタイムはおおむね予測値の上下 5% 以内に収まります。実際のレースでは、さらに 2 種類の誤差が加わります。目標パワーどおりに走れるかどうかと、天気予報が当たるかどうかです。レース後に実際の走行ファイルをアップロードすれば、レース後の比較レポートが差をパワー、CdA、停止時間などに分けて示すので、どこで差がついたのかがわかります。あなたの CdA もどんどん正確になります。

信頼性について

  • この記事の数字はすべてバックテストの結果表から直接算出したもので、グラフも同じデータから描いています。表引き CdA の数字は、同じプログラムで CdA の出どころだけを替えて再実行したものです。
  • データ品質による除外ルールは一貫して適用しています。たとえば気圧計のノイズがしきい値を超えたファイルは、誤差が正常でも除外しました。ただし、いくつかのルールは最初に極端な結果が出たあとで追加したものです。結果を見てから外した特例は上記の 3 本だけで、その値もすべて載せています。サイトのほかの場所では、それらを除外していない 64 本の数字を使っています。
  • 全体に効くパラメーターのうち 2 つは、同じファイル群を使って調整したものです。カーブでの減速の倍率(Hamburg のファイルで校正。Hamburg もサンプルに含まれます)と、CdA を推定するときの新旧レースの重み付けです。
  • サンプルは 9 人で、全員が同じコーチングチームの選手です。そのうち 3 人だけで全体の半分以上を占めます。コースはアジア、ヨーロッパ、北米、オセアニア、中東にわたります。無作為に選んだサンプルではないので、別の人たち、別のコースで試せば数字は変わる可能性があります。
  • バックテストのプログラムと結果表はプロジェクト内に保存してあり、エンジンを更新するたびに再実行します。数字が変わったときは、その理由とあわせてこの記事を更新します。

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